柔らかい鉄と卵(渡辺麻友について)
渡辺麻友が芸能界引退だそうである。
僕にとって最初に好きになったAKBのメンバーはおそらく渡辺麻友だと思う。そしてその後も色々なメンバーを見て自分の推しは入れ替わっていくのだが、それでも総選挙で1位を取った時や、昨年の朝ドラで話題になった時などは、自分のことのように喜んだものだ。
「渡辺麻友には無二の才能がある」と、今でも確信している。
そもそもAKB48は、一辺倒になりがちなアイドル像を「数を増やす」というやり方で、力ずくで更新することに成功した。いろいろなアイドルがいていいし、その楽しみかたもいろいろあっていい。そんな多様化の時代にとても良くなじむ、新しい発見だった。
その中でも渡辺麻友は、一見、王道のアイドルだった。
アイドルとしての振る舞いや見た目、佇まいは完璧。
しかし時折何かが見える。
腐女子としての渡辺麻友がじわりと出てくる。なんだかルサンチマンを感じさせるようなものや、情動的なものがSNSを通してちらりと見えたりする。
「荒ぶる麻友選手」は、一時ファンの見どころでもあったと思う。特にぐぐたすとか755全盛期。
しかし、それでいて、アイドルとしては完璧。
でもって、マジすか学園のネズミみたいな役もめちゃくちゃかっこいい。
声の出し方もとてもうまいので、声優もできる。
表に出てくる渡辺麻友像の完璧さと、個人としての渡辺麻友の孤独感が、どちらもすごい純度で存在していて、そして最終的にはアイドル完全体みたいなことになる。
しかもポイントは、どちらも特に嘘ではなさそうなところだ。無理して何かを作っているような感じは一切しない。アイドル性と自我の両方を、高い水準で保っていた(ように見えていた)。そこが渡辺麻友のすごさだと思う。
20年ぐらい前、そのころ付き合っていた彼女に言われたことがある。
いくら自分を飾ろうとしたり、偽っても無駄。
本質的なものは必ず他人から見えているのだと。
本当のところはわからない。
けれど、完璧なアイドルと少しおもしろい普通の渡辺麻友を同時に見せながら、しかし最終的には完璧なアイドルである、という不思議な感じをそのまま見せることができたのは、渡辺麻友の持つ力強さであり、技術の高さであり、現代アイドルの到達点の1つだと僕は確信している。
ともあれ、健康がすぐれないことが今回の理由であるということなので、くれぐれもゆっくり、大事にしてほしい。
Sigrid Don't Kill My Vibe
アルバムに入っているアレンジもエモーショナルでいいが、やはりアコースティックの方が、声が際立つので好きだ。
苛立ったような表情や時々がなるヴォーカルは、社会に埋もれる人間の原生的な強さを感じさせる。特に最後のパートで表現される情感は感動的。
Don't kill my vibe.
Don't break my stride.