批評(ex.goma油)

批評(ex.goma油)

趣味の批評をしてみたいと思いました。

きらきらひかれ、ベイスたん

※再録(2012/8/13のものです)

「きらきらひかれ」とは、チャットモンチーが7月に出したシングルだ。


http://youtu.be/icp2b1WjH0w


まず何が素敵かって、「拳銃」を聞いたときに感じた疾走感のある曲調だ。さらに、それまで顕著だった女の子的な感性を排除した歌詞がさらにシンプルに強くなっている印象。

だけど一番に心を揺さぶったのは、歌いだしの「きらきらひかれ」の、「れ」のところだ。

きらきらひかる、は、われわれに馴染みが深い。確かきらきら星の日本語詞がそうだったし、マンガもあった。

きらきらひかる」っていうのは状態を表していて「ああ、きらきらと光っているね」ということだから、観察者はただその光っている対象を観察し描写しているような、はっきりとした距離を感じる。

だが「きらきらひかれ」と、それを命令形にしたことで、光る対象への能動的な態度が感じられるようになった。

それはすなわち、光ってほしいという願い。客観的な観察者ではなく、主体的な願いや、祈り。

それが、「れ」をいっそう高くうたう歌い方でストレートな感情が伝わってくる。

「きらきらひ」「か」「れ」と高くなるメロディーは、それを歌うときに歌い手の顔を空に向け、まるで本当に夜空に願っているような感じになる。

これはまあ、僕が歌うときにたまたまそうなったから、そしてそれがとてもいい顔の角度だったから書いているのだけれど、たとえそれが意図したものでなくても、僕はそういう風にとてもすばらしいと感じたので、それはそれでいいじゃないかと思っている。

この話はここでいったん終わり。



次、「ベイスたん」とは


http://www.plus-blog.sportsnavi.com/yakyuu_manga/category/2


スポーツナビブログで連載されている野球マンガである。野球を題材にしたマンガではあるが、試合のシーンを直接描くわけではない。

「ベイスたん」という横浜DeNAベイスターズファンの星型生物が、テレビさん、冷蔵庫さん、ツイッターの青い鳥、神様(大ちゃん)、ノジマの尾花店長、大洋ホエールズ時代のマスコット、マリンくんっぽい医者などそれなりな脇役たちと共に日々のベイスターズの試合に一喜一憂するさまを眺めるマンガだ。

そういう意味では、日常系4コママンガに近いとも言えなくもない。

作者のカネシゲタカシさんは、もともと「イガワくん」という井川慶(※1)を題材にしたマンガをスポーツナビでやっていたのだが、井川がヤンキースを退団した今年からは、井川と同じ感じで横浜DeNA初代監督中畑清をいじる「週刊キヨシくん」という連載を始めている。

※1
阪神(岡田)⇒ヤンキース(不遇)⇒オリックス(岡田)


「イガワくん」も好きだったので、開幕当初は「キヨシくん」をメインに見ていたのだが、4月中ごろからひっそり「ベイスたん」が始まったのだ。

(それにしても「イガワくん」「キヨシくん」「ベイスたん」って、「コボちゃん」や「アサッテ君」のような4コマへのリスペクトが感じられて良い)

当初は「ブログペット」を始めたという言葉通り、たまごっち的な感じでベイスたんの様子を楽しむマンガだった。

ベイスターズの勝敗によってベイスたんが「ごはんが食べられたり食べられなかったり食べられなかったり」を見せていたのだ。
(むかし雷波少年かなんかでやっていたプロ野球の勝敗で食事が決まるやつみたいに)

が、だんだんと登場人物が増え、ラジオがテレビになり、車やDJセットを買い、おほしさま12個でハマスタに行けるというルールができ、交流戦やオールスターでは神様(大ちゃん)がベイスたんを翻弄し、気が付いたらベイスたんの世界には深みが増していた。


「なかむらノリせんしゅ」や「ばんちょうとうしゅ」や「ラミちゃんせんしゅ」を本気で応援するベイスたんを見ていたら、何だかこっちまでベイスターズを応援していたのだ。


三浦大輔が150勝をあげた時、オールスターの第1打席で中村紀洋がきれいなホームランを打った時、間違いなく僕は、ベイスたんと同じ気持ちで応援していた。そして「ベイスたん、ほんとうに良かったね」と心の中で語りかけていた。

それは、ベイスたんがベイスターズを応援するその気持ちがそのまま、少年のころのぼくらが野球にあこがれていたあの気持ちだからだ。

カネシゲさんは大阪出身で阪神ファン、1975年生まれだという。あの日本一とその後の暗黒時代を少年時代に経験したとすると、こういうマンガを描けるのも納得できる。


地元チームの帽子をかぶり応援する少年ファンは何も悪くない。

フェンス越しに見る野球選手はとても大きくて、遠く高く打球を飛ばすホームランバッターや、涼しい顔で三振を取るピッチャーは、いつまでもぼくらのヒーローだ。

大人になればそんなこと忘れて負けても仕方ないよなんて思うけれど、そしてたぶん残念ながら、ここ最近のベイスターズはそんなチームだったのかもしれないけど、でもそれはベイスたんみたいな「かつての自分」には関係ない。

いつでも選手はヒーローで「つおいやよ、やさしいやよ」。



今年から中畑が監督になると聞いて、だいたいの野球ファンは「それはどうだろう」と思ったはずだ。楽天参入時と同じような空気(あの時よりは穏やかだが)の中、監督就任を工藤に断られた後の保険的な人事に見えた。

コーチ経験も豊富ではない中畑は、言い方は悪いが「広告塔」としての起用ではないか。楽天みたいにしばらくは期待できないのかもな。

そんなふうに、少なくとも僕は思っていた。


しかしキャンプに入り、開幕を迎え、しばらく見ているうちに僕は「もしかしたら良い監督なのかもしれない」と思い始める。

まず弱いことをしっかり認めていたのがすごい。

他のチームに対策されるのを恐れず、オープン戦でもどんどん走る。なぜならそんな警戒をして実戦を無駄にできるほど、自分たちは強くないからだ。力が足りないのだから負けるのは仕方ない。ただ、がむしゃらにやろう。その上で負けるのであれば、それは未来につながる負けだから。

と、グッと我慢する。

そして良かった選手は、しっかりほめる。もう何度も、監督が選手をほめるのを聞いた。まるで高校野球の優勝チームのように、栄冠に輝く最高のチームだと言わんばかりに、明日への希望を語るのを聞いた。


名将と呼ばれるような監督に比べて、まだ理論も技術も劣るだろう中畑監督。だけど現役時代に「絶好調」と言い続けた男は野球理論なんかより先に、チームに大事なものを見抜いていた。


それはファンのために一生懸命やること。

こんな監督に呼応するように、純真な野球ファンの化身としてベイスたんが誕生したのは、偶然なのか狙ったのかわからないけど、とてもスポーツ的な必然を感じる。


ベイスたんは、スポーツ観戦にまつわる僕たちの心の機微を、そのまっすぐな少年性で鮮やかに思い出させてくれた。それは、たまたま聞いた、あの歌の歌詞

「きらきらひかれ ぼくらのほしよ なみだじゃないよ きみのみらいさ」

に、びっくりするほどしっくりきたわけなんだ。